2024.01.10

10代のデジタルエチケット制作現場見学vol.1【クリエイター質問篇】

2023年12月9日、「10代のデジタルエチケット」プログラムにおける活動の一環として、「10代のデジタルエチケットキャッチコピーAWARD 2023」の最優秀賞と優秀賞を受賞した高等学校の生徒2名によるプロのクリエイターの制作現場訪問を実施しました。

見学先は、最優秀賞の特典のキャッチコピー映像化を担当する、プロのクリエイターであるアニメーション作家の今津良樹氏。どのような過程を経て映像作品が制作されるのか、その作品づくりの手法や仕事への向き合い方など、コンテンツ制作をリアルに体験いただきました。

プロのクリエイティブな世界について学ぶために、当日参加者から投げかけられた質問を紹介します!

今津良樹氏(Yoshiki Imazu):
アニメーション作家。代表的な作品に、サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」(MVアニメーションディレクター)、Mr.Children「Documentary film」MVアニメーションパート、DONE&STADIUM TOUR2017「1999年、夏、沖縄」(ステージ映像アニメーションディレクター)、amazarashi「さよならごっこ」(MVアニメーションディレクター)、星野源「不思議」リリックビデオ、King Gnu「雨燦々」カバーアート、「雨燦々」「BOY」MVアニメーションパート、DREAMS COME TRUE 「スピリラ」MV(アニメーションディレクター)など。

King Gnu「雨燦々」MV アニーメーションパート
シナぷしゅ「AIUEONGAKU」パソコン音楽クラブ&Neibiss ディレクション&アニメーション
さだまさし「ペンギン皆きょうだい2020」(short edit ver.)MVディレクション/アニメーション

©︎Yoshiki Imazu

Q:今津さんのクリエイターとしてのバックグラウンドついて教えてください!

クリエイターのキャリアとしては、広告代理店での経験を経て、東京藝術大学大学院映像研究科で2年間アニメーションについて学び、2018年よりフリーランスのクリエイターとして活動しています。

Q:10代の頃からクリエイティブに興味があったのですか?どんな学生でしたか?

みなさんと同じ高校生の頃は、私は広告の仕事、特にCM制作に興味を持っていました。広告代理店に就職すればCMを作れるかもしれないと考え、そのために進学する大学を調べました。美術系の大学が広告に関連していることを知り、興味を持ち、高校3年生の頃から美大受験のためのデッサン教室に通い始めました。そこは通常の受験勉強をする場所とは異なり、非常にユニークな教室で、デッサンなどの基本的な技術を教えてもらうというより、代わりに先生は普通とは異なる視点で絵を評価してくれました。この経験から、作品を作ることの面白さを知りましたし、先生との出会いは今でも新しい視点で作品を作ることの助けとなっていると思います。

Q:これまでに手がけた作品について教えていただけますか?

様々なミュージックビデオやCM、アニメーション作品を手掛けてきました。代表的な作品のひとつとして、例えば、大学院在学中に担当したMr.Childrenさんの25周年ライブのステージのアニメーション映像があります。ドームの画面に映し出されるアニメーションなのでとても大きくて印象に残っています。

Q:最近の作品で印象に残っているものはありますか?

2023年10月に発売した加藤シゲアキさんの3年ぶり書き下ろし長編小説『なれのはて』のイメージムービーを担当しました。広告を作る際には、まず知らない人にどのように伝えるか、どのように人の注意を引くかを考えますが、この作品で挑戦したのは、作品の解釈を直接映像に反映させるという、少し異なるアプローチです。この方法では、作品を見た人が、最初は意味が分からない要素も、作品を読んだ後に再び映像を見ると、「ああ、これは作品のこの部分を表していたのか」と理解できるようになります。映像を通じて作品を深く理解する楽しみ方ができるものを目指しました。

Q: ミュージックビデオの制作時間について教えていただけますか?

プロジェクトによりますが、通常は1ヶ月から3ヶ月の間で制作します。短いものでは1週間で仕上げることもあります。

Q:ミュージックビデオのアイデアはどのようにして思いつくのですか?

基本的には、曲を聞き込んで、歌詞や音の流れからインスピレーションを得ます。曲に何をプラスすることで、より楽しく聞けるか、補助線のようなイメージで考え、視覚的にも楽しめるアイデアを出しています。

Qクリエイティブな作業の中でアートとビジネスのバランスをどのように取っていますか?

自分の作品をゼロから作る場合は、普段からのアイデアが積み重なってきた物を表現することができるという楽しさがあります。ビジネスで既存のアイデアやテーマに基づいて作る場合は、与えられたお題に対してどのように応えるかが重要になります。これは別の種類の楽しさがありますね。どちらか一方に偏りすぎるとストレスを感じることもあります。

例えば、一人で長時間作業を続けると、作品がどうなるか分からない状態で、自分だけで何度も見直すことになるので、答えが出ない状態になりがちです。一方で、クライアントとの作業では、作品を見せてフィードバックをもらうことで、ストレスが軽減されることがあります。このように、自分だけで作る場合とクライアントとのやり取りをする場合では、ストレスの種類が異なりますが、それぞれがあることでバランスが取れているように感じていますね。

Q:自分の伝えたいメッセージと相手がどのように受け止めるかには差が生じることがありますが、そのギャップについてどう考えていますか?

客観性という点からいうと、私は作品を作る際に常に他人の意見を聞きながら、自分の意図が正確に伝わっているかを確認するようにしています。できるだけ、自分の意図と受け手の理解に差がないように努めています。ただ、作品を公開すると、予想外の角度から捉える人もいて、それはそれで面白いと思いますね。例えば、自分が粗いと思った部分を良いと感じる人がいれば、次回はその要素を積極的に取り入れてみようと思います。完全に全員が同じように理解することは難しいですが、その中で新しい発見をすることもあります。

Q:私は学校の課題で自分の解釈や表現がうまく伝わらず、楽しい時とそうでない時の感情の振れ幅があります。このような気持ちにはどう向き合ってきましたか?

作品が最終的にどう解釈されるかは、自分では結局分からないことが多いですし、毎回、これでよかったのかと思いながら取り組んでいます。実際、納品直前やメール送信の瞬間には、「これが最悪の作品かもしれない」と思うこともありますが、実際に世に出してみると、意外とよく受け入れられることもあり、そうした中で、新しい興味やアイデアが生まれることもあります。そういった経験の繰り返しで、物事は進んでいくものだと思います。

最後に、今回2人の学生さんが作成したキャッチコピーへのコメントをお願いします!

石関さん:『あなたは貸してと言えますか』

【考案背景】著作権違反は遠い問題のように感じられがちですが、実際には私たち一人ひとりに関わる問題です。そこで、「著作権」というような難しい言葉を使うと、自分とその問題との間に距離を感じてしまうと思い、著作権侵害を、もっと身近な「物の貸し借り」という行為に例えてみました。これは、著作権侵害が遠い問題ではなく、私たちの日常に密接に関わっていることを示しています。著作権という身近な問題について問いかけ、このコピーで著作権をもっと身近な自分達の問題としてとして捉えてもらえたらと思います。

井口さん: 『見えない世界でも良い人でありたい。』

【考案背景】私は、他人の目を気にしてしまうタイプで、家の自分と学校にいるときの自分は少し違うように感じています。例えば私がいつも学校で笑顔を心がけているように、実際、多くの人はどこかで「良い人」でありたいと思っていると感じます。これはSNSや現実の世界においても同じで、著作権侵害の問題にも当てはまると思いました。このコピーを通じて、著作権侵害を行う人々が自分の行動を見直すきっかけになればと思います。

今津氏:お二人とも、自分の立場や感情と問題を結びつけて考えている点が素晴らしいと思います。単に言わなければならないからという理由で考えたのではなく、自分の経験や、もし自分がその問題の当事者だったらどう感じるかという視点から言葉を選んでいるところが印象的です!

(左より)今津良樹さん、井口穂香さん、石関彩絵さん